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私たちの実績

吉野杉の無垢材による​   インスタレーション

「杜(もり)のオブジェ / Installation Forest Walking」

「杜のオブジェ」制作の契機となったのは、大阪の帝塚山学院住吉校のコモンズルームの改修計画である。帝塚山学院は、100年以上の歴史を持ち、小学校・幼稚園・女学校に始まり、現在は幼稚園から大学まで男女共学を含めた教育を展開する帝塚山エリアの名門校として知られている。今回の計画地は、小学生から高校生までが在籍している住吉校である。新しい教育の場としてコモンズルームを計画されており、図書館や多目的ホール等の生徒の共用エリアを改修するものであった。

全体計画は、株式会社山田綜合設計が統括し、そのなかで、廊下部分のインスタレーションをarbolが担うこととなった。廊下は、生徒のためのアクティビティスペースを生み出しながら、コモンズルームエリア全体を繋いでいく場所として位置づけられた。

インスタレーションをデザインするにあたって、まず、コモンズルームエリアの軸となる廊下は、コミュニケーションを誘発する場であり、それぞれの学びの空間を往来する際の思考の切り替えの場でもあることから、身体的には「動」だが、精神的には「静」の空間として捉えることとした。感覚が研ぎ澄まされる凛とした雰囲気、それでいてどこか優しく包まれるような空間を目指した。そして、帝塚山学院がかつて松林であった歴史や、初代校長である庄野英二先生の森の中で学ぶという教えより、コンセプトは、「森の逍遥」「やわらかな人だまり」「五感に響く新しいシンボル」とイメージした。

また、空間の究極を突き詰めると、空間とは「光」の下での「物体」の巧み且つ正確で壮麗な働きである、という考え方がある。そこで今回は、吉野杉の無垢材による「杜(もり)のオブジェ」を制作するとともに、照明の質にもこだわり、「杜のオブジェ」が浮き上がるように照射することで、シンボリックな印象となるよう計画した。コンセプトを研ぎ澄まし、上質な素材とものづくり、光に焦点を当てることとした。

「杜のオブジェ」の制作は、木工作家の平井健太氏に依頼した。平井氏は、2010年に飛騨高山で木工技術を学び、その後3年間アイルランドにて「joseph walsh studio」に勤務。帰国後、2017年に奈良県川上村にて「studio Jig」を開業。平井氏の技術の特徴は、杉等の木を何重にも重ね合わせ人の手による曲げ加工を行い、美しいうねりのある曲げ木のプロダクトを生み出すことにあり、現在日本でこの技術を持つのは平井氏唯一人である。(2019年3月時点)

「杜のオブジェ」の具体的なデザインについては、廊下は小学生が元気よく通行する場であることから安全性が求められたこと等を受け、管理しやすい1200mm四方程度の小さなオブジェを3つ制作し、アクティビティの中心となる多目的ホール前に配置することとした。制作対象を小さく抑えたことで、限られたコスト・製作期間の中で、平井氏の技術が引き出され、凝縮された造形美が織りなす、他では目にしたことのない空間とすることができたように思う。

歴史の長い本校には、幾つかのシンボルがある。たとえば、階段の手摺に鎮座するウサギとカメの小さな像は、何世代にも渡って生徒たちの手で撫でられることで、丸みを帯びやわらかく磨かれ、何物にも替え難い存在感を放っていたことが印象的であった。

今回の計画が、新しいコモンズエリアの軸として、生徒たちの感性が研ぎ澄まされ、響き合う、思惟の場となるようにと思いを込めた。そして、「杜のオブジェ」に触れることで、生徒たちが触れた痕跡が風合いとなり、唯一無二の新しいシンボルとして、少しずつ本校の歴史に刻まれていくことを願う。

〈概要〉
全体監修設計| 株式会社山田建築設計事務所

〈インスタレーション概要〉
※帝塚山学院住吉校コモンズルーム改修工事の内共用廊下部分
プロジェクト期間|2018年7月〜2018年12月
木のオブジェデザイン|arbol 堤 庸策、梅﨑裕子
木のオブジェ・製作|木工作家 平井健太
照明計画・製作|モデュレックス
撮影|下村 康典
クライアント|学校法人 帝塚山学院
プロデュース| KIP Corporation 西田 浩子

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